寿司職人・奈良本健史さんの一言「仕込みができなければ、職人とはいえない!」から、教師にとっての「仕込み」が何であるかを考えていただきたいと思います。
寿司職人にとって、いちばん大切な仕事は具体的にどんなことですか?
寿司職人にとって、いちばん大切な段階は、お客さんの前で寿司をにぎることではなくて、「仕込み」なの。基本的に仕込みの善し悪しで寿司屋の仕事の出来は、80%くらい決まってしまうんだよね。
親方に、「大切なのは、寿司がにぎれるかどうかではない。いかに仕込みができるかだ。」ということを常に言われていたね。仕込みは地味な作業ですよ。でもね、大切なんだよね。俺は、「仕込みができなければ、職人とはいえない!」と思っているからね。今でも仕込みに8時間かけていますよ。営業時間よりも長いからね。
仕込みとは具体的にどんなことをするのですか?
魚を買いつけに行って、下ごしらえすることが基本的には仕込みだよ。下ごしらえは、ネタを決められた量で丁寧に切っておいたり、こぶしめなんかは、前の晩からしめておくことが必要なんだよ。でも俺は、下ごしらえだけではなく、店の掃除や、道具の手入れも仕込みだと思っているからね。
俺の親方はかんぴょうを1本つくるのに、秤ではかるんですよ。職人として、商売でやっているからには、1グラムの誤差も許されない。1グラム多く100本のかんぴょうを切ったら、損失は大きいからね。だから、下ごしらえは時間がかかりますよ。それができない人は職人ではないね。結局、仕込みが全てなんだよね。
仕込みをする中で、奈良本さんの職人としてのこだわりはどんなことですか?
もちろん食材にはとことんこだわりますよ。例えば、山葵(わさび)は静岡産のものしか使わない、と決めているしね。静岡の中でも天城産のものだけ。伊豆の天城山から湧き出る清流で丹精込めて作られた最高級の山葵だけを使っているよ。ここは銀座だからね、半端なものは使えない。半端なものを出したら、お客さんにだってすぐに分かってしまうしね。 ただ、俺が考えるに、いくら一流の食材を使っても、お客さんから「おいしかった。」と言ってもらうためには、自分自身がいろんな寿司屋に行ってみるという経験が必要。サービスや心意気も含めて、「こちらの店はこんなふうにしていたな」とか、「あちらの店は、あんなふうにしていたな」とか。良いところはしっかり吸収して、悪いところはまねをしない。自分の目で見て、肌で感じないと分からない。それは教科書やビデオでは分からないことだよね。いちばん良くないのは、外を見ようとしないこと。俺は、寿司屋を400軒くらいは回ってきたよ。
使う道具もそう。一流の道具を使うだけで満足しては駄目。ちゃんと使いこなさないと。一流の道具があって、一流の食材があって、そこに「緊張感」が生まれるんだよね。寿司屋は、お客さんの目線にまな板があり、包丁があるんですよ。お客さんに見られながら、一流の包丁と一流の食材で常に「緊張感」を味わいながら仕事するんですよ。
だから道具は毎日きれいに磨いているし、毎日掃除もしますよ。結局、いくつもの「こだわり」が、準備のきめ細やかさにつながっていくんだよね。
奈良本さんにとって「職人とは」?
割に合わないことや地道なことを毎日毎日丁寧に繰り返すのが職人ですね。俺なんか、20年同じことをしているからね。でもね、同じこととは言っても、10年経っても20年経っても新たに分かることがあるんだよね。今でも、「こはだ」なんか下ごしらえしていると、季節によって油ののり具合とか、大きさなんかが違うときに“ハッ”と気がつくんですよ。親方は、あのとき、そういうことを言っていたんだなって。20年経たなければ分からないことはたくさんありますよ。
だから今でも気づくことだらけ。楽しいですよ。今は、親方に言われていた、「大切なのは、寿司がにぎれるかどうかではない。いかに仕込みができるかだ。」ということもよく分かるしね。
毎日地道に続けられるモチベーションは何ですか?
一人で店を持ってやっていくのはきついよ。でも心のどこかで、今まで自分を教えてくれた親方たちへの恩返しの気持ちがあるんだよね。もちろん好きじゃなければできないんだけど。
とっかかりは何でもいいけど、自分の仕事に対しては、「愛情」と「志」をもつことが大切だと思うね。やっぱり自分をここまで育ててくれた人たちに感謝の気持ちをもつことが本当に大切だと思うよ。
取材協力
寿司なら本
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