インターネットやメールの利用など、コンピュータは今やわたしたちの生活に欠かせない存在(そんざい)となりました。今回は、コンピュータ会社で研究員の仕事をされている方にお話をうかがいました。
日本アイ・ビー・エム株式会社(かぶしきがいしゃ)
東京基礎研究所(きそけんきゅうじょ) 副主任(ふくしゅにん)研究員
村上 明子(むらかみ あきこ)さん
インタビュアー:吉田 裕典(よしだ ひろのり)
まずは、村上さんのお仕事がどのようなものか教えてください。
日本IBMの東京基礎研究所で研究員として働いています。研究員の仕事は、社会で必要とされていたり、これから必要になると考えられる新しい技術(ぎじゅつ)を考え出すことです。実際(じっさい)にプログラムを作ってそれが使えるかどうかを試してみて、うまくいきそうであれば論文(ろんぶん)にまとめて学会で発表したり、製品化(せいひんか)したりする仕事です。
具体的には、どのような研究をされているのでしょうか?
自然言語処理(しょり)技術の研究をしています。人の言葉をコンピュータが理解できるようにする研究、と言えばわかりやすいでしょうか。身近なところでは、インターネットの検索(けんさく)エンジンに自然言語処理の技術が活用されています。ホームページに書かれている内容(ないよう)をコンピュータで分析(ぶんせき)して、どのようなことに関係する内容が書かれているかを明らかにし、人が検索したときに、関係したページが表示(ひょうじ)できるようにしています。たとえば、みなさんが「小学生に人気のあるおかし」について調べたいときに、インターネットの検索(けんさく)エンジンに、「おかし 小学生 人気」というキーワードを入力して検索すると、キーワードに関連する内容のホームページが表示されますよね。
なるほど。検索エンジンがそのような技術を活用していたとは知りませんでした。ホームページはたくさんあるので、人がこの作業をやっていたら大変ですよね。
そうですね。そこでコンピュータの力が生きてくるわけです。ホームページや本、新聞など、形はいろいろありますが、人が書いた知識(ちしき)はどんどん増(ふ)えていっています。それを、コンピュータを使って、いかにして多くの人が活用できるようにするか、というのがわたしの研究テーマです。
村上さんは、小さいころはどんなお子さんだったんですか?
わたしは、なんでも不思議がる子どもで、先生や親を質問(しつもん)ぜめにしてこまらせていたそうです。教科書にのっていることでも、本にのっていることでも、自分で考えて納得(なっとく)しないと前に進まないタイプでした。研究者には、子どものころこういうタイプだった方が多いみたいですよ。
今の研究に関係するようなことは何かありましたか?
そうですね、言葉に関していえば、国語や文法は好きでしたし、本を読むのも好きでした。それから、親が建築(けんちく)の仕事をしていたので、当時はめずらしかったコンピュータが家にあって、小学校3年生くらいからコンピュータをさわっていました。プログラムを作って、絵をかいたり、迷路(めいろ)ゲームを作ったりしていたことを覚えています。
もう一つ、研究者になろうと思うきっかけになった出来事がありました。小学生のころに科学万博があり、当時の最先端(さいせんたん)技術の展示(てんじ)を見に行きました。そのころわたしは、技術というものはすでに進歩が終わっていて、もう変わらないものと思っていたんですが、さらに進んだ技術があるのを見て感動し、こういうふうに技術を進歩させていく研究者になってみたいな、と思うようになりました。
コンピュータの会社に入られたのは、やはり小学生のころコンピュータをさわられていたことと関係があるのでしょうか?
そうですね、コンピュータをさわるのが好きになったということでは関係がありますが、中学・高校の間は周りにコンピュータの話ができる人がいなかったので、コンピュータから遠ざかっていました。大学は物理学科に入ったので、そこからまたコンピュータを使うようになりました。
コンピュータに関する学科ではなかったんですね!
そうなんです。
大学を受験するときに、興味(きょうみ)があった物理学科と国文学科で迷(まよ)って、結局、物理学科に入学しました。文学は本を読みさえすれば、趣味(しゅみ)としてできるのではないかと思ったので。
では、物理学科からコンピュータの会社に入られたということですね。コンピュータの会社に入ろうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
大学生のときに、ちょうどインターネットが普及(ふきゅう)し始めていて、ある会社のホームページを作成するアルバイトをしていました。そのときに、これからインターネット上でいろいろな人がたくさんの情報(じょうほう)を発信するようになるだろう、と感じました。そして、どうしたらその情報を人が使いやすいようにできるだろうか、と考えたんです。人が何万件(なんまんけん)という情報をすべて読むのは難(むずか)しいことですが、コンピュータに情報の内容を理解させて、関係がありそうなものだけ読むことができれば便利ですよね。そのためには、情報をコンピュータに理解させる必要があります。それで、自然言語処理、つまり、人が書いた言葉をコンピュータに理解させる技術に興味をもち、そのような研究を行っている会社に入社したわけです。
そうすると、入社してすぐに現在(げんざい)の部署(ぶしょ)に入られて、自然言語処理の研究をなさっているということですか?
そうですね。今年で9年目になります。
研究員の仕事をするうえで必要な力としては、どのようなものがありますか?
どんなことにでも興味をもって考えてみることが重要だと思います。先ほどの万博の話とも関係がありますが、人がやった研究、書いた本、開発した技術などを、完成されたものと思ってしまうのではなくて、別の視点(してん)から見たら違(ちが)ったことが見えてくるのではないか、新しい発見があるのではないか、と興味をもって考えていくことが重要です。
それから、自分のアイデアをうまく表現(ひょうげん)して人に伝える力も必要です。どんなによいアイデアを持っていたとしても、それを人に伝えることができなければ、だれにも知られないままになってしまいますので。
もう一つ、英語ができることもとても重要です。学会では英語で発表をすることが多いですし、論文はほとんど英語で書かれていますので、研究をしていくうえで、英語の力は絶対(ぜったい)に必要です。
仕事をしていて楽しいこと、大変なことは、どのようなことがありますか?
楽しいのは、自分で自由に考えることができることですね。何かをしなさいと言われる仕事ではなく、自分から、これがおもしろいのではないか、と提案(ていあん)ができる仕事なので、それが楽しいことです。ただ、逆(ぎゃく)に、だれかにこれをしなさいと言われるわけではないので、自分でなにもかも考えなければいけないというのがちょっと大変なことですね。いいアイデアが出てくるときは楽しくて、楽しさのあまりに寝(ね)るのも忘(わす)れて研究するようなこともあるんですが、アイデアが出てこないときは苦しくて、大変です。
それから、楽しいこととして、いろいろな人と接(せっ)することができる、ということがあります。研究をしていると、他の会社の人や、大学の人など、いろいろな人とつながりができますし、会社の中でも、日本だけでなく、海外の人と一緒(いっしょ)に研究をすることもあります。たとえば、今の研究は、アメリカ、インド、中国の人と一緒に進めています。
とても国際的(こくさいてき)ですね! それは、こちらの研究所の中で一緒に研究をされているんですか?
いえ、IBMの基礎研究所は日本のほかに、アメリカやインド、中国など、世界で8か所にあって、他の研究所にいる人と一緒に研究をしています。ですので、電話で会議をしたり、メールやチャットのやり取りをしながら研究を進めています。
お仕事の際(さい)にはどんな道具を使われていますか?
やはり、いちばん使うのはパソコンですね。デスクトップのパソコンが2台と、こちらに持ってきたノートパソコン1台を使っています。メモやスケジュールの管理もコンピュータ上で行っているので、仕事をするうえでは手帳はあまり使いませんね。
それから、研究は自分で考えるのも大事ですが、人が何をやったかを知るのも重要なので、他の研究者の方が書かれた論文を読んでいます。